ブックタイトル第129回例会プログラム集 - 日本薬学会北陸支部

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概要

第129回例会プログラム集 - 日本薬学会北陸支部

BG-4中性子結晶解析によるH S P 7 0内部の水和構造の可視化〇横山武司1、Andreas Ostermann 2、Tobias E Schrader 3、水口峰之1(1富山大院薬、2ミュンヘン工科大、3ユーリヒ研究所)熱ショックタンパク質HSP70はATP-ADP交換によって基質親和性が制御される、アロステリックタンパク質である。ATPは負の、ADPは正の協同性を示すことが知られているが、異なる協同性の仕組みを解明するには、リン酸基1つの違いが構造、電荷、水和構造に与える影響を知る必要がある。中性子結晶構造解析法であれば、2.5 A分解能程度の回折データでも水素原子を観測できるため、水素原子レベルでの議論が可能である(図a)。本研究では、HSP70-ADP複合体の中性子結晶構造解析を行い、水素原子を含む“完全な立体構造”を2.2 A分解能で構築することに成功した。軽水素による非干渉性散乱を避けるため、中性子結晶解析に用いるタンパク質は重水置換を施している。したがって、立体構造モデルは軽水素と重水素の両方を含めて精密化しており、必然的に重水素交換率が求まる。重水素交換率が低い“剛性の高い領域”は、ADPのリン酸基やその近傍の水分子クラスターを囲うように分布していることが明らかになった(図b)。つまり、リン酸基が結合する領域は構造変化が起きにくく、アロステリックシグナルは単純なタンパク質の立体構造変化ではない可能性が示唆された。一方で、ADPのリン酸基に近い位置にあるE175やD206は、脱プロトン状態で水分子クラスターと水素結合を形成していることがわかった(図c)。このことは、ATPが結合すると電荷相殺のためにE175やD206がプロトン化され、水分子クラスターの構造を変化することで、アロステリックシグナルが伝播することを示唆している。図(a)水分子とT158のX線電子密度図(左)、中性子散乱密度図(中央)、X線と中性子マップを重ね合わせてモデルに水素原子を加えた図(右)。X線と中性子を相補的に利用することで水分子や水酸基の方位が決定できる。(b) HSP70-ADP複合体のリボンモデル図。重水非交換領域を青色で示している。(c)水分子クラスターの拡大図。黒色点線は水素結合を示す。