ブックタイトル第129回例会プログラム集 - 日本薬学会北陸支部

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概要

第129回例会プログラム集 - 日本薬学会北陸支部

生理活性タンパク質創薬と人工バイオ医薬松本邦夫(金沢大学がん進展制御研究所)HGF(Hepatocyte Growth Factor:肝細胞増殖因子)は初代培養下にある肝細胞に対する増殖促進因子として日本で発見された生理活性タンパク質である。HGFは697個のアミノ酸からなり、MET細胞膜貫通型チロシンキナーゼを受容体としている。MET活性化は、細胞増殖・遊走・生存の促進、3-D上皮管腔形成誘導などの生物活性につながり、HGFはこれらの生物活性を介して組織の形成や傷害・病態に対する修復・再生を担っている。増殖因子・サイトカインのいくつかは医薬品としても広く用いられている。特徴は強い生理活性に起因する際立った薬効である。HGFは肝臓をはじめ、複数の組織・臓器において、修復・再生を促すことに加え、傷害や病態の進行を抑制する。疾患モデルでのHGFの薬効に関する結果もふまえ、組換えHGFタンパク質の医薬開発を目指して創薬ベンチャーを起業した。開発にあたっては、細胞増殖因子としての活性をもつため、発がん性に関する懸念に対してどう対応するかについても考慮した。答えとしては、非臨床試験や臨床試験を、あくまで法律に準拠し、科学としてのデータの検証に基づいて進めることとした。組換えタンパク質の製造、非臨床試験、臨床試験、それらを薬機法に準拠して開発を進めた。現在、脊髄損傷ならびに筋萎縮性側索硬化症(ALS)を対象に、それぞれI/II相、II相試験を進めている。最近、卓越した特殊環状ペプチド技術をもつ菅裕明博士(東京大学)と共同で、環状ペプチドからなる人工HGF(人工METアゴニスト)の創成に成功した。コンセプトとしてはMET受容体に高い選択性で結合する特殊環状ペプチドをリンカーでつなぎ、bivalentにすることであった(図)。驚いたことに、この環状ペプチド性人工HGFはHGFタンパク質に匹敵する多様な生物活性と最大活性を発揮した。医薬品の中で組換えタンパク質医薬が占める割合は年々増加し、約30%に及ぶ。しかしながら、製造コストが高いことがバイオ医薬品の難点である。人工HGFを創成した手法は、HGF-MET系に限らず、他の増殖因子・サイトカインにも応用することができる。環状ペプチドを利用した人工増殖因子・サイトカインの作成手法は、化学合成可能な次世代型人工バイオ医薬創成の普遍的な手法となる可能性を秘めている。生理的条件で分子のダイナミックな動きを見ることで、新たなメカニズムの解明につながる可能性があるかもしれない。最近、基礎研究として、高速バイオ原子間力顕微鏡によるHGF-MET分子動態観察を進めている。