ブックタイトル第129回例会プログラム集 - 日本薬学会北陸支部

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概要

第129回例会プログラム集 - 日本薬学会北陸支部

AS-8マウスの系統差によるレクリエーショナルドラッグMDMA誘発行動の相違〇中田早音、向井沙和子、矢口立真、出山諭司、檜井栄一、金田勝幸(金沢大・薬)【背景・目的】3,4-methylenedioxymethamphetamine (MDMA)はレクリエーショナルドラッグとして乱用されている麻薬であるが、覚せい剤のメタンフェタミンや他の麻薬であるコカインなどと同様に多幸感を誘発するのみでなく、社交性や共感力の増強といった向社会効果を示す。しかし、MDMAによる向社会効果の発現機構の詳細については不明な点が多い。そこで本研究では、MDMAの向社会効果の神経機構を調べるにあたり、まず、マウスの系統の違いによって向社会効果に相違が存在するのか否か、また、行動試験法による向社会効果の検出感度に違いが存在するのか否かを、C57BL/6J (B6)とICRマウスを用いて比較検討した。また、これらの系統においてMDMAの報酬効果に相違があるのかも検討した。【方法・結果】雄性B6 (7-10週齢)、および、ICR (7-9週齢)マウスを用いて、向社会効果は3 chamber test (3C)、および、social approach test (SA)により、また、報酬効果はconditioned place preference test (CPP)によりそれぞれ検討した。3Cでは、仕切りで区切られた3つのチャンバーからなる装置を用い、新奇マウスを入れたかごを設置したチャンバー(stranger area)での試験対象マウスの滞在時間を測定した。行動試験の20分前にMDMA 5 mg/kgを腹腔内(i.p.)投与した。B6、ICRともに、MDMA投与群とsaline投与群との間でstranger area滞在時間に有意な差は認められなかった。すなわち、3Cでは、いずれの系統においてもMDMAによる向社会効果は検出できなかった。SAでは、長方形の装置の一端に新奇マウスを入れたかごを設置し、試験対象マウスが、かごの近傍(social area)に滞在する時間を測定した。行動試験の5分前にMDMA 2.5,あるいは、10 mg/kgをi.p.投与した。B6では、MDMA 2.5, 10 mg/kg投与群とsaline投与群との間でsocial area滞在時間に有意な差は認められなかったが、ICRでは、MDMA 2.5, 10 mg/kg投与群でsocial area滞在時間が有意に増加した。すなわち、SAではICRに対するMDMAの向社会効果が検出できることが分かった。CPPでは、白黒2つの連結されたチャンバーからなる装置内をマウスに自由に探索行動させたのち、MDMAで条件付け(5 mg/kg i.p.投与後、30分間片側のチャンバーに閉じ込める操作を4日間繰り返す)を行い、その後、条件付けチャンバーに対する嗜好性を評価した。その結果、B6、ICRともにMDMA条件付け群でsaline条件付け群と比較して顕著な場所嗜好性が観察された。つまり、MDMAの報酬効果はいずれの系統においても検出された。【結論】以上の結果より、B6とICRの両系統間でMDMAによる報酬効果には差は認められなかったが、MDMAによる向社会効果には相違が認められ、3CではなくSAにおいて向社会効果が検出できることが分かった。したがって、社会性の評価にはICRにSAを用いることが適切であることが示唆された。今後はICRマウスを用いて、MDMAの向社会効果に関与する神経機構を解明していく予定である。