ブックタイトル第129回例会プログラム集 - 日本薬学会北陸支部

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概要

第129回例会プログラム集 - 日本薬学会北陸支部

AS-15DiosgeninによるHSC70の減少はアルツハイマー病の軸索萎縮と記憶障害を改善する○楊熙蒙、東田千尋(富山大学和漢医薬学総合研究所病態制御部門神経機能学分野)【背景・目的】アルツハイマー病(AD)は、脳内におけるAβや過剰リン酸化タウの蓄積が原因と考えられているが、我々はこれらの異常を改善することに加えて、より重要なこととして神経細胞における軸索萎縮の修復に着目している。これまでに当研究室では、山薬中の成分diosgeninが、Aβによる軸索萎縮を改善し、ADモデルマウス(5XFAD)における記憶障害を改善することを発見した。さらに、diosgeninの軸索伸長及び記憶回復につながる受容体として、1,25D3-MARRSを同定した(Sci Rep, 2:535; (2012), Sci Rep, 3: 3395; (2013))。しかし、その下流において、軸索伸長や記憶回復に直接関わる細胞内シグナルは不明であった。そこで本研究では、diosgenin刺激によって変化するシグナル分子を探索し、軸索伸長作用や記憶改善作用との関係を解明することを目的とした。【方法・結果】野生型マウス、5XFADマウス(雄性、24-27週齢)に溶媒またはdiosgenin (0.1μmol/kg/day)を15日間経口投与した。Diosgeninを投与した5XFADマウスでは物体認知記憶が有意に改善した。その後、大脳皮質からタンパク質を抽出し、二次元電気泳動で3群間でのタンパク質の発現量を比較した。MALDI-TOF/MS解析により、diosgeninを投与した5XFADマウスの大脳皮質中では、Heat shockcognate 70 (HSC70)が減少することがわかった。マウス胎児(ddY, E14)より初代培養した大脳皮質神経細胞にAβ25-35 (10μM)を処置すると細胞中のHSC70は増加し、軸索が萎縮した。その後からdiosgenin (0.1, 1μM)を処置すると、HSC70は減少し、軸索が再伸長した。HSC70は、様々なクライアントタンパクと結合し、クライアントの分解やフォールディングを促進する。軸索伸長に関わるクライアントを抗HSC70抗体による共免疫沈降で探索したところ、Aβ25-35 (10μM)処置によりHSC70との結合が増加するタンパク質としてα-tubulinが同定された。α-tubulinは軸索形成に関わる骨格タンパク質である。Aβ25-35 (10μM)を処置した神経細胞の軸索の形態を微分干渉像及びpNF-H陽性画像で観察したところ、structure-retained軸索及びstructure-lost軸索に分類された。Structure-lost軸索上でのα-tubulinの発現量は、有意に低かった。また、Aβ25-35(10μM)を処置した神経細胞へのdiosgenin (1μM)の後処置は、structure-lost軸索の割合を顕著に減少させた。Aβ25-35 (10μM)を処置した神経細胞にHSC70の機能阻害剤VER-155008 (0.05, 0.5, 5μM)を処置すると、軸索が再伸長した。野生型マウス及び5XFADマウス(雌性、32-38週齢)に溶媒またはVER-155008 (10μmol/kg/day)を18日間腹腔内投与すると、VER-155008投与群で物体認知記憶が有意に改善した。【考察】以上の結果より、AβによるHSC70のシャペロン機能の増加は、そのクライアントであるα-tubulinの分解を促進し、軸索萎縮や記憶障害につながっている可能性が考えられた。また、diosgeninによるHSC70の減少が、軸索伸長や記憶改善に重要な分子シグナルである可能性を初めて示した。さらに、HSC70の特異的阻害は、Aβによる軸索萎縮と5XFADマウスの記憶障害を改善させることを明らかにした。本研究により、ADにおいてHSC70が有用な治療ターゲットとなり得ることが示唆された。