ブックタイトル第129回例会プログラム集 - 日本薬学会北陸支部

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概要

第129回例会プログラム集 - 日本薬学会北陸支部

AG-14嗅覚の刺激および破壊がマウスの糖代謝に及ぼす影響の解析〇大西兼悟、恒枝宏史、松岡幸奈、松田大樹、和田努、笹岡利安富山大学病態制御薬理学【目的】肥満および2型糖尿病患者は嗅覚障害を呈する。しかし、嗅覚系が糖代謝に及ぼす影響や機序は不明である。最近、マウスやラットに対する嗅覚刺激が脳の視床下部オレキシン系を活性化することが報告された。視床下部オレキシン系は覚醒、摂食行動、およびエネルギー代謝の制御に重要な役割を果たす。当研究室では、視床下部オレキシン系が自律神経系を介して糖代謝を調節し、肥満に伴うインスリン抵抗性を防御することを報告した。そこで本研究では、嗅覚と糖代謝が機能的に連係し、その機序にオレキシン系が関与するかを明らかにするため、オレキシン欠損マウスを用いて嗅覚刺激や嗅覚消失が糖代謝に及ぼす影響を検討した。【方法】嗅覚刺激実験では、多数の小孔を有する遮光瓶内に高脂肪食を封入し、マウスに視覚情報を与えることなく食餌の匂いを受容させた。嗅覚消失実験では、マウスの嗅球を摘除し、高脂肪食を16-28週間負荷した。糖負荷試験(GTT)、インスリン負荷試験(ITT)、およびピルビン酸負荷試験(PTT)により糖代謝の変化を解析した。エネルギー代謝は小動物用代謝測定システムで解析した。【結果】マウスに高脂肪食を24時間摂食させると、高脂肪食に対する嗅覚嗜好性が生じ、その嗜好性は長期間保持された。高脂肪食に対する嗅覚嗜好性を獲得した野生型マウスを用いて、絶食下で食餌性嗅覚刺激を行ったところ、非刺激群に比べ、PTTでの血糖上昇が抑制された。しかし、オレキシン欠損マウスでは食餌性嗅覚刺激による血糖変化は認められなかった。一方、嗅覚消失実験では、嗅球摘除し高脂肪食を16週間負荷した野生型マウスはGTTにおいて偽手術群よりも著明な耐糖能異常を呈した。ITTでは軽度なインスリン感受性の低下を認めた。このとき、インスリン分泌は障害されておらず、体重、自発運動量、およびエネルギー消費量も変化しなかった。これに対し、オレキシン欠損マウスでは高脂肪食負荷に伴う耐糖能障害は嗅球摘除群と偽手術群で同程度であったので、嗅覚消失とオレキシン欠損の影響は同一機序であることが示された。【結論】本研究では、空腹時の食餌性嗅覚刺激は急性的に肝糖産生を抑制し、長期的な嗅覚破壊は耐糖能を増悪させることを示した。また、これらの機序にオレキシン系が関与することを見出した。以上より、食直前の食餌性嗅覚刺激は食後の過度の血糖上昇を防止し、糖尿病の発症防止に寄与すると考えられる。