ブックタイトル第129回例会プログラム集 - 日本薬学会北陸支部

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概要

第129回例会プログラム集 - 日本薬学会北陸支部

BS-3トランスサイレチンのVal30位の変異体の安定性とアミロイド線維形成の関係〇山田征哉、帯田孝之、水口峰之(富山大薬)【背景・目的】アミロイド線維とは、生体内タンパク質が凝集することで形成される不溶性の線維状凝集体である。アミロイドーシスは、アミロイド線維が臓器や神経に沈着することにより、臓器不全や神経障害などの機能障害を呈する疾患である。トランスサイレチン(TTR)は遺伝性アミロイドーシスである家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)を引き起こすことが知られており、現在、100種類以上の病原性変異が報告されている。その中で最も頻度の高い変異はVal30がMetに変異したV30M変異であり、それ以外のVal30位の変異(V30A, V30G, V30L変異)もアミロイドーシスを引き起こすと報告されている。しかし、Val30位の変異とアミロイドーシス発症との詳細な関係性は明らかになっていない。そこで本研究では、Val30位の変異とアミロイド線維形成の関係を検証することを目的とした。そのために、重要な因子と考えられている安定性とアミロイド線維形成量の関係性について調べた。また、V30I, V30L, V30G変異体についてX線結晶構造解析を行った。【方法】QuikChange Site-Directed Mutagenesis Kitを使って、TTRのVal30位に19種類のアミノ酸変異を導入した。精製のために、TTRのN末端にHis6-Tag (AHHHHHHM)を導入した。作製したプラスミドで大腸菌C41 (DE3)又はC43 (DE3)を形質転換しTTRを発現させた。11種類の変異体及び野生型TTRのみNi-NTA樹脂を用いて精製を行った。精製が可能であった11種類の変異体(V30A,V30C, V30F, V30G, V30I, V30L, V30M, V30S, V30T, V30W, V30Y)及び野生型TTRの計12種類のTTRについてCDスペクトルを測定し、二状態転移モデルを仮定して平衡論的安定性を評価した。また、12種類のTTRについてpH4.4, 37℃の条件下でアミロイド線維を形成させた。その後、チオフラビンT (ThT)蛍光の測定結果から、アミロイド線維形成量の評価を行った。V30I, V30L, V30G変異体を結晶化し、放射光施設Spring-8でX線回折実験を行った。得られたX線回折データから結晶構造解析を行った。【結果・考察】インクルージョンボディとして発現した変異体は、Val30位に親水性が高いアミノ酸を導入した8つの変異体(V30D, V30E, V30H, V30K, V30N, V30P, V30Q, V30R)であった。また、CDスペクトル測定により求められた平衡論的安定性は変異アミノ酸の親水性が高いほど不安定である傾向が見られた。これらの結果は、Val30が疎水性コアに位置しているため、変異アミノ酸の親水性が高いほど、構造の安定性が低下するためであると考えられた。また、ThT蛍光測定の結果から安定性が低い変異体ほどアミロイド線維形成量が多い傾向があることが確認された。このことから、アミロイド線維形成は安定性との相関関係があることがわかった。さらに、X線結晶構造解析の結果により、V30I, V30L, V30G変異体の立体構造をそれぞれ1.80A, 1.64A, 1.64Aの分解能で決定した。これらの立体構造を野生型TTRの構造(PDB ID:4n85)と比較したところ、主鎖構造には大きな構造変化が見られなかった。以上の結果から、TTRはVal30位の変異により、その全体的な立体構造は変化しないが、立体構造の安定性が低下し、その不安定化の程度が大きいほどアミロイド線維形成量が増加する傾向があることがわかった。